ハチゴロウの戸島湿地とは

豊岡市立ハチゴロウの戸島湿地は、豊岡市の北部円山川河口近くに位置しています。3km先は日本海です。周辺は山に挟まれた低湿な田んぼや畑、集落で、一帯が氾濫原の名残を今に残す汽水域です。川の対岸には有名な城崎温泉があります。
面積は、施設全体で3.8ha、うち淡水湿地が2.5ha(地盤高は海抜25cm)、汽水湿地が0.7ha(地盤高・海抜20cm)。周辺の里山、小川、田んぼ、河川、海と有機的につながることで、湿地の生態系を高めています。
山際には、コウノトリの人工巣塔が建っており、コウノトリの夫婦が2008年から毎年ヒナを育て、巣立ちさせています。

ラムサール条約湿地に登録されています!

円山川下流域と、その周辺にある気比区や畑上区の水田は、自然再生によってコウノトリの生息地としてよみがえりました。一度は絶滅したコウノトリの「野生復帰」をキーワードに、市民・団体・企業・行政などが関わりながら、豊かな生態系の再生を目指す取組みを行ってきました。これらの取組みが世界に認められ、2012年7月、「円山川下流域・周辺水田」がラムサール条約に登録されました。ここ、ハチゴロウの戸島湿地も含まれています!
ラムサール条約は、世界的に重要な湿地を評価し、保全するための国際条約です。様々な国が協力して水辺の自然を守っていくことを目的としています。ラムサール条約の正式名称は、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といい、1971年に条約が結ばれたラムサール(イラン)の名前をとって、「ラムサール条約」と呼ばれています。
湿地の「保全・再生」と「賢明な利用(ワイズユース)」、そしてこれらを支え、促進する「交流・学習(CEPA:Communication, Education, Participation and Awareness)」が、ラムサール条約の3つの目的です。

施設の紹介

管理棟はハチゴロウの戸島湿地の管理運営、環境教育、観光の説明等を行っています。

湿地を一望しながらコウノトリや豊岡の自然について学ぶことができます。

駐車場 無料15台

ハチゴロウの戸島湿地ができたわけ

そもそも「ハチゴロウ」って何?

飼育のコウノトリを自然界に帰すことを決めたものの、果たして今日の自然や社会の環境下で生きていけるのだろうか、人間はどう付き合ったらいいのだろう。不安を抱えながら放鳥の準備を進めていた2002年の夏、突然に豊岡の地に舞い降りてきた者が現れました。

それが大陸から渡ってきた1羽の野生コウノトリ、「ハチゴロウ」です。大きく美しい姿で優雅に空を舞う様子は、多くの人々を魅了させるのに十分すぎるほどのものでした。そして、田んぼに入っては「こうして餌を獲るよ」、学校の上を舞い、電柱に止まっては「人間との距離はこうして保つよ」と。あたかも、人々に教えてくれているようでもありました。
いつしか、みんなから親しみを込めて、やって来た8月5日にちなんで「ハチゴロウ」と呼ばれるようになったのです。

戸島の田んぼに舞い降りた「ハチゴロウ」

2005年の初夏、ハチゴロウは戸島地区の田んぼに入り浸っていました。田んぼは、工事が予定されていたため稲が植えられず、湿地状態になっていました。(約半分の田んぼは既に工事が完了していました)

魚もたくさん入っています。道路のそばなので、ハチゴロウの姿は多くの人が注目することになりました。

夏になり、群生するミズアオイが一斉に紫の花を咲かすと、コウノトリと湿地は一層鮮やかに水辺世界を作っていきました。

いろんな人から、「こんな素晴らしい場所は、後世に残すべきだ」との声が上がるようになりました。実は、予定されている工事とは、現状の湿田を乾田にするための嵩上げ工事だったのです。

豊岡市は、戸島地区の農家と話し合いを重ねました。「コウノトリの餌場として保全したいので、田んぼのいくらかを売ってほしい」
「昔から、膝まで浸かりながら苦労して米を作ってきたので、土地改良工事は念願だった」「早く嵩上げ工事を行って、重労働から解放されたい」

「乾田になっても農業経営の苦しさは変わらないと思う。後継者もほとんどいないし」
「コウノトリは環境のシンボルなので、コウノトリが居ることでコメの価値が上がるのでは」 様々な意見が出ます。

議論の末、農家は『工事予定地の半分は予定通り嵩上げ工事を行い、残る半分はコウノトリの環境にするために市に提供する』ことを決断され、田んぼはコウノトリの餌場に生まれ変わることになりました。
こうして、2006~2007年に用地買収、2007~2009年に県と市で整備工事が実施され、2009年4月2日、豊岡市立ハチゴロウの戸島湿地が開設されました。

整備事業の概要

単位(千円)

全体業費(H18~21) 275,669
用地取得費(市)
〈合併特例債を活用〉
82,472
田園自然環境保全整備事業(県)
〈農林水産省補助〉
99,000
ハチゴロウの戸島湿地整備事業費(市)
〈国土交通省まちづくり交付金、合併
特例債を活用〉
94,197

湿地の名前に「ハチゴロウ」が付いたのは?

経過でお分かりのとおり、もし、ハチゴロウがこの場所に舞い降りていなかったら、おそらく土地改良工事が予定どおり実施され、湿地はできていなかったでしょう。

豊岡市は、この場所がとても重要なところだよ、と教えてくれ、湿地ができるきっかけを与えてくれたハチゴロウに感謝し、将来にそのことを忘れないようにするため、その名を冠した名称にしました。

ならば、この湿地をどうすべきか、おのずから方向は決まっています。

農家が代々受け継いできた貴重な田んぼを市に譲られ、託された気持ちを真摯に受け止め、コウノトリがいつでも舞い降り、十分な餌を食べられるようにしなければなりません。

「餌を食べられる」とは、魚や両生類など、多様な生きものがたくさんいるようにしていくこと、コウノトリが採餌できる環境に整えていくことです。

「環境を整える」とは、水辺の生態系を豊かにしていくこと。つまりは自然再生です。

ハチゴロウの戸島湿地では、生態系をより豊かにするため、湿地を単独で考えるのではなく、周辺の自然と繋げるようにしています。単独なら、「大きなため池」で終わってしまいますから。

日本海~円山川~湿地へ。山~結川~田んぼ~水路~湿地へ。周辺の水辺と繋ぐことで、多様な生きものが季節に応じて行き来し、湿地は活力が出てきます。

湿地自体は小柄ながら、渓流、小川、田んぼ、汽水域の要素がまとまって存在する、あたかも生きもののデパートのようです。
だから、イトヨやサケも入ってくるのですね。

湿地では、毎日、どうすれば魚が遡上しやすくなるのか? カエルが住むにはどれくらい草を刈ったらいいのか? コウノトリが食べやすい水深はいくらまでか? などの解明に挑戦し、考えながら作業を行い、管理しています。

ハチゴロウの戸島湿地は、こんなこともしています

コウノトリ野生復帰の普及啓発

「なぜ、日本のコウノトリは一度滅んでしまったのか?」「なぜ、ここまで復活することができたのか?」「野生復帰の成功に向けて、なすべきことは何か?」

これらの野生復帰に係る基本的なことを、この湿地ができた理由(わけ)などを通して、説明しています。

コウノトリの繁殖・飛来情報の提供

この湿地の巣塔を拠点にしているペア(J0294♀、J0391♂)の繁殖の様子は、管理棟に備え付けのテレビで常時撮影していますので、室内でライブで見ることができます。

豊岡市、京丹後市での繁殖状況は、航空写真で場所とヒナを示しています。

日本の各地(豊岡、越前、野田)や韓国(イエサン郡)で放鳥された個体や野外で繁殖した個体の「今、どこにいるか」は、室内の地図に落としています。

その日の個体の目撃情報は、コウノトリ市民科学のHPをご覧ください。

子どもたちへの環境教育

湿地は、コウノトリが暮らせる環境の意味を生で学べる絶好の場所です。人工巣塔で子育てしている様子をライブ映像で見る。湿地で生い茂るヨシやガマを、地面に跪いて鎌で刈る。水や草の中の生きものを調べてみる。

コウノトリを野生に返していく取り組みを、少しでも肌で感じてくれればと願いながら行っています。

  • 教育風景1
  • 教育風景2
  • 教育風景3
  • 教育風景4
  • 教育風景5
  • 教育風景6
ご希望の学校等、いつでもご連絡ください。

誰が管理しているの?

ハチゴロウの戸島湿地は豊岡市の施設ですが、その管理運営は民間団体に委ねられています。「コウノトリ湿地ネット」が設立当初から2023年3月31日まで、「日本コウノトリの会」が2023年4月1日から指定管理者として管理運営しています。